昨日の公明新聞に,与党法案について,「分社化も地域指定解除も、被害者の救済がすべて終了し、水俣病問題の最終的解決が図られることを大前提としている」。だから,水俣病問題の幕引きをはかるという批判は的外れであると主張しています。
一見すると,もっともなように思えます。すべての被害者が救済されるなら良い話ではないか?
しかし,この「大前提」こそがくせ者です。
被害者の救済が「すべて終了した」とは,誰が,どのようにして判断するのでしょうか?
「すべての被害者」が救済された状態というのは,誰が被害者であるのかが判明していることが前提のはずです。そうでなければ,常に潜在被害者が存在し得ることを考慮しなければなりません。平成7年の政治解決で,すべて被害者救済が終了したと誰しも思っていたのに,現時点で救済を求める人たちが数千名に上り,裁判をしている人だけでも,1500名を超えているという現実を直視すべきなのです。潜在被害者を含めたすべての被害者を把握するためには,少なくとも,不知火海沿岸の全住民の健康調査を実施することが不可欠です。ところが,与党法案は,このような健康調査は実施しないことが前提なのです。
また,被害者であるかどうかの判定基準についても,現在までの水俣病に関する医学的な成果を踏まえたものではないし,ましてや平成16年の最高裁判決が支持した大阪高裁判決基準をも無視し,限定的な捉え方でしかありません。しかも与党案は,公的診断にこだわり,水俣病患者をもっとも多く診てきた民間医療機関の診断書を受け入れようとしていません。これでは,多くの被害者が切り捨てられるだけです。
つまり,与党の言う「すべての被害者」とは,「現時点で救済を求めて手を挙げている人たちの中から,行政が被害者と認めたすべての人」という意味なのです。加害者である国・県が,被害者が誰かを決めるということです。そして,公的診断と狭い判断基準で,加害企業のチッソの株売却益でまかなえる限度に対象者を絞ろうという魂胆が見え見えなのです。
このような,加害者側にとって都合の良い「すべての被害者救済」という「大前提」があるからこそ,幕引き法案にすぎないと批判されなければならないのです。このような法案は,決して可決成立させてはなりません。
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