人の痛みがわかるというのは,実はなかなか難しいことです。それでも,自分の生活に置き換えて考えてみることはできます。
例えば,公害の原点「水俣病」の代表的な症状として,感覚障害というものがあります。特徴的なのは手足がしびれて感覚が鈍くなるというものですが,あまりマスコミ的にはスポットライトを浴びないものに,味覚や嗅覚が鈍くなる(ひどくなると,わからなくなる)というものがあります。それらがどういう「被害」なのかは,あまり理解されていないように思います。
私のブログでは,ワインの話がよく出てきました。
そこで,味覚や嗅覚が鈍くなったりわからなくなったとしたら,と考えてみます。
そうなると,ワインはただの酔っぱらうための無味無臭の液体に過ぎなくなります。
どうせ味はしないし,ただ酔っぱらうためなら,もっとアルコール度数の高いものの方が効率的でしょうし,レストランでワイン?そんな高い金を払って飲むことなどあり得ないでしょう。
食事だって,空腹を満たすための作業になってしまいます。
何を食べているのかなんて目をつぶればわからないし,もし一粒で栄養十分・空腹も満たすサプリでもあれば,それでOKになりそうです。
水俣病は,同じ食生活をする家族にも発症する可能性があります。家族みんなが味覚・嗅覚に障害があったら,どうなるでしょうか。家族の食卓は,空腹を満たす作業を協同で行う場であり,会話がはずむはずもなく,楽しい団らんの時などではなくなってしまいます。そうなると,家庭生活が崩壊することだってあるはずです。
あらためて,味覚・嗅覚のありがたさ,水俣病の被害の深刻さ,加害企業チッソや国・熊本県の罪深さの一端が理解できると思います。
私は,どんな事件でも,人の痛みがわかる弁護士でありたいと願っています。
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